東京高等裁判所 昭和55年(ネ)2839号 判決
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【判旨】
一請求原因1、2項の事実は当事者間に争いがない。
二そこで、まず、金融公庫に対する支払分の債務不履行の有無について検討する。
右争いない本件和解成立の事実、<証拠>を総合すれば、(1)本件和解調書上、控訴人は金融公庫に対する被控訴人らの残債務金四七二万円を重畳的に引受け、被控訴人らに代つて毎月金七万円宛(但し、最終月は金五万円)、昭和五三年八月から同六〇年一月まで毎月一五日限り分割して支払うこととされていること、(2)控訴人は、昭和五三年一〇月一五日頃及び同五四年一月一四日頃、右割賦金を準備したうえ、取扱店である国民金融公庫松戸支店に支払のため赴いたが、債務者である被控訴人らを同行しなければ、受領できないと、いずれも受取りを拒まれたこと、(3)被控訴人らは、本件和解の成立後まもなく、右和解調書に記載された本件土地・建物の売買代金五一〇〇万円のうち金五〇〇万円は、一括して控訴人から被控訴人らに支払われるべく、金融公庫への割賦金は、被控訴人らが支払うと主張して、控訴人に対し、割賦金の支払のために必要な金融公庫の払込通帳等を交付せず(右不交付の事実は、当事者間に争いがない。)右支払のための同行をも拒否していたこと、(4)なお、被控訴人らが本来支払うべき割賦金は二口にわかれ、昭和五三年八月当時一か月に支払うべき金額の合計は金七万円を超えていたこと、(5)控訴人は、昭和五四年一月二〇日、昭和五三年八月分から同五四年一月分までの割賦金合計金四二万円を弁済供託したこと(右(4)、(5)の事実は、当事者間に争いがない。)、以上の事実が認められる。
右によれば、控訴人が、本件和解上被控訴人らに対して負う債務、換言すれば金融公庫に対し右和解条項所定の割賦金を支払うべき債務の履行としては、前記控訴人のなした金融公庫に対する弁済の提供をもつて十分であり、控訴人に債務不履行の責はないと解すべきである。蓋し、控訴人が右弁済のためになし得ることは、右提供をすることに尽き、被控訴人らにおいて、和解条項を無視して自己への金五〇〇万円の一括支払を主張し、必要な協力を拒む以上、控訴人においていかんともすることができないからである。控訴人が、右割賦金の昭和五三年一一月分及び一二月分についてそれぞれ一一月一五日及び一二月一五日までに金融公庫に弁済の提供をなしたことについては、明確な主張立証がないけれども、前掲証拠によれば、被控訴人らは、右協力を拒む態度を維持して変らなかつたことが認められ、仮に控訴人が弁済の提供をしても、金融公庫に受領を拒まれることは明らかであつたと認められるから、なお控訴人に債務不履行はないというべきである。
被控訴人らの当審における主張によれば、被控訴人らは、その主張にかかる小切手が不渡りとなつた事実をもつて、本件和解条項上の債務不履行があり、被控訴人らが売買予約等を解除することができるとなすもののようである。しかし、前記争いのない事実によれば、本件和解条項に定められた控訴人の債務は、金融公庫に対して一定額の割賦金を毎月支払つてゆくことであり(第三項)、いわば割賦払の形で支払の猶予を得ているのであり、右割賦元金の支払を二回以上怠つたとき解除されるのである(第七項)。被控訴人ら主張の右小切手金支払の債務のごときは、何ら本件和解条項に記載のないものであるから、仮に、本件和解の外において、控訴人が右債務を負い、その遅滞があつたとしても、これを理由として右第七項により解除する余地はないものといわなければならない。そして、このことは、右小切手金の支払が、その実質において、右割賦金の一括払に当たるものであるとしても同様である。なお、被控訴人らは、本件和解は、従来どおり、被控訴人らが金融公庫へ割賦金を支払うこと、従つて被控訴人ら主張の約束手形金五〇〇万円が支払われることが前提になつていたと主張するが、それだけでは、前記判断は左右されないばかりでなく、証人小坂嘉幸の証言及び被控訴人権本人尋問の結果(当審)によれば、本件和解の成立に被控訴人らの代理人として関与した訴外小坂嘉幸は、右和解成立当時、右金五〇〇万円支払の件について被控訴人らから聞いておらず、従つて右和解成立の際、右金五〇〇万の一括支払が和解成立の前提とされた事実はなかつたことが認められるから、右主張も理由がないというべきである。
そうすると、金融公庫に対する割賦金支払の遅滞を理由とする売買予約等の解除はその効力がなく、本件和解調書につき執行文付与の条件が成就していないとの控訴人の異議は理由がある。
三次に共積信用に対する支払分の債務不履行の有無について検討する。
被控訴人らが、控訴人は本件和解上の共積信用に対する昭和五四年二、三月分の各割賦金三〇万円及び同年一月分から三月分までの利息を各弁済期日に支払わなかつたとして、同年三月三一日付の書面で本件売買予約等を解除する旨の意思表示をし、これが同年四月三日控訴人に到達したことは当事者間に争いがない。
そして、<証拠>によれば、被控訴人らは、控訴人に対し、本件和解上の金融公庫に対する残元金の弁済として、金五〇〇万円の一括支払を要求し、昭和五四年一月九日付書面(同月一二日到達)で、右公庫に対する割賦金の支払を二回以上怠つたとして本件土地・建物の売買予約等を解除して(右解除の意思表示は、当事者間に争いがない。)その明渡を求め、同月二三日には和解条項第七項の条件成就を理由に本件和解調書に執行文の付与を受け(右条件成就を理由に執行文の付与を受けたことは当事者間に争いがない。)、同年三月一四日には執行官に右強制執行の申立をしたことが認められる。
右によれば、被控訴人らは、昭和五四年二、三月当時、右売買予約等を解除し、右土地・建物の明渡を求めていたものであるから、その売買代金の一部支払である控訴人による共積信用に対する割賦金の支払の受領をも明確に拒絶していたものと認められ、かような場合、控訴人としては、現実の提供はもとより、口頭の提供さえしなくても債務不履行の責を負わないというべきであるし、<証拠>によれば、控訴人は、共積信用に対する昭和五四年三月分の割賦金三〇万円を、被控訴人らの受領拒絶を理由に、同年四月二日弁済供託したことが認められる。そうすると、前記のように、受領拒絶が明瞭な場合は、口頭の提供をしなくても、右弁済供託は有効で、右三月分の割賦金債務は消滅したものというべきところ、被控訴人らの共積信用に対する割賦金の支払遅滞を理由とする本件土地・建物の売買予約等の解除の意思表示が控訴人に到達したのが、右債務消滅の翌日である四月三日であることは、当事者間に争いがないから、いずれにしても、右解除は、本件和解条項第七項に定める「割賦金の支払を二回以上怠つた場合」との条件を満していないものであつて、その効力はないというべきである。
なお、被控訴人らは、共積信用に対する利息支払の遅滞を主張するが、前記争いがない本件和解条項第七項によれば、被控訴人らにおいて解除することができるのは、控訴人が割賦元金の支払を怠つた場合であり、利息支払の遅滞を含まないことが明らかであるから、利息についての支払遅滞を論ずるまでもなく、右主張は理由がない。
そうすると、共積信用に対する割賦金支払の遅滞を理由とする売買予約等の解除はその効力がなく、本件和解調書につき執行文付与の条件が成就していないとの控訴人の異議は理由がある。
四以上の次第で、控訴人の本訴請求は理由があり、これを棄却した原判決は不当であるから取消し、右請求を認容することとし、当裁判所がなした強制執行停止決定の認可及び仮執行の宣言につき民事執行法附則三条による改正前の民事訴訟法五四八条を、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九六条、九三条、八九条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(杉田洋一 横山長 浅野正樹)